会計コースにおける研究演習の紹介

経営学科 准教授 川本和則

高校生のみなさんにとって、2年間、会計学を専門に学習する研究演習というと、検定試験や税理士試験などの合格を目指してルールを暗記したり、電卓をつかって難しい簿記の問題を素早く正確に解けるように練習したりするというイメージがあるかもしれません。また、簿記や会計を全く知らない人にとっては、お金の数え方を勉強するものに思えるかもしれません。
しかし、それは会計学の研究演習の中心的な内容ではありません。ここでは、わたくしが現在担当している会計学の研究演習の内容について紹介していきたいと思います。  会計とは企業や非営利団体などの組織の活動を記録・整理し、その結果を一定期間ごとに報告するものです。会計はいろいろな側面から分類できます。その分類方法のひとつに、記録した内容を企業内部の人や組織に報告するものと、企業外部の人や組織に報告するものとの大きく2つの内容に分ける方法があります。わたくしが担当している研究演習は、主に、記録した内容を企業外部の人や組織に報告する財務会計と呼ばれる会計に関するものです。
財務会計は企業などの活動内容を外部の人たちに報告するものです。一見すると、ある企業がどれだけ利益をあげたり損をしたりしたのかということは、その企業の関係者だけの問題のように思えます。しかし、時々、新聞やニュースで「ある企業の利益がいくらになった」というような事が伝えられるように、会計が報告した内容は社会の多くの人に伝えられます。なぜ、ある企業の利益(または損失)が広く社会に伝えられるのでしょうか。
また、財務会計では、個々の企業などが好き勝手なルールで記録したり報告したりすることは認められていません。企業などの組織はその活動を法律や会計基準などで定められた一定のルールにもとづいて記録・報告しなければなりません。なぜ、個々の企業の記録方法や報告方法を、法律や会計基準などの社会的ルールで決めなければならないのでしょうか。
会計の記録・報告方法が社会的に定められていたり、その計算結果が広く公表されたりするのは、会計が社会の制度として重要な役割を果たしているからだと考えます。近年、会計の知識の必要性がますます高まっていると言われるのも、会計制度が現代社会における重要な制度のひとつであるからだといえるでしょう。
さらに、会計が記録する内容も大きく変化してきています。例えば、近年、多くの項目において将来の出来事を予測して会計の計算に含めることがルールで認められてきています。上で述べたように会計は過去の一定期間(例えばこの1年間)の活動の結果を報告するものです。どうして、その計算に将来の出来事を含めることが許されるのでしょうか。また、将来の出来事を会計の計算に含めることは、社会に対してどのような影響をもたらすのでしょうか。
このように、会計の学習とは単にお金を数えたり、問題を解いたりするだけのものではありません。
会計コースの研究演習のほとんどがそうであるように、わたくしが担当している研究演習も会計制度の内容とその役割、およびその制度を支える会計理論などについて理解を深めるための学習をします。それは我々が暮らす現代社会の構造とそこで生じる多様な出来事を会計学の視点から理解し分析するために必要な知識を得るための学習です。さらに研究演習では修得した知識をもとに演習中に報告したり、卒業論文を作成したりすることを通じて、自分で考える力を養うことも目指しています。わたくしはこれらのことが会計学を通じて社会の仕組みを把握できる人材の育成という会計コースの目標の達成につながり、ひいては本学の教育理念である「社会事象を的確に捉え、分析し、解決する能力を備えた心豊かな人材の育成」という目標の達成につながると考えています。